心、手、素材の交錯と配合の中から生まれる工芸・・・
工芸美術 日工会
第34回 工芸美術 日工会展

第34回 工芸美術 日工会展

第34回 工芸美術 日工会展

会期:2025年6月15日(日)~6月21日(土)
   9:30AM~5:30PM(入場は5時まで)
   最終日21日(水)は2:00PM終了
   ※休館6月16日(月)
会場:東京都美術館 ロビー階 第4展示室
入場料:800円
主催:一般社団法人 工芸美術 日工会
後援:文化庁、東京都、日本経済新聞社

ワークショップ工芸で創る小さな世界 ミニアチュール展 会場風景 募集要項

第34回 日工会展開催にあたって

 我が国の工芸は、春夏秋冬が織りなす豊かな自然に育まれた日本人の感性によって、世界に誇る工芸美術として独自の発展を遂げてまいりました。

 心、手、素材の交錯と融合の中から生まれる工芸…、激しく揺れ動く現代の消費社会にあって、ものをつくるという人間本然の行為に根ざす工芸の美は、私達の心のよりどころとして更に豊かな展開がもとめられています。

 工芸美術日工会は、ものをつくる歓びを共有し、作家相互の自由意志を尊重し、価値ある造形を志す作家の集まりであります。
現代の人の心に潤いを与え、より高く、時代を先駆ける創造を指向して、日本の文化発展にいささかでも寄与できればと願っています。

 第34回展にも、充実した会員作品に加えて、一般公募作品の中に新鮮な感覚と未来を感じさせる意欲的な作品が多かったことも喜びとするところであります。

 開催にあたり後援頂きました文化庁、東京都、日本経済新聞社をはじめ、ご協力、ご支援いただきました関係各機関に感謝の意を表します。

2025年6月

一般社団法人 工芸美術 日 工 会

主  旨

本会は作家の自由志向を尊重し、個性ある創作活動を通して、時代に即応した質の高い豊かな工芸を創造し、わが国の工芸美術の発展と文化の振興に寄与することを目的とする。

審査員

委嘱審査員
井谷善惠 (東京藝術大学特任教授) 外舘和子 (多摩美術大学教授)

加藤令吉[陶器]/金井伸弥[陶器]/河野榮一[陶器]/木谷陽子[漆芸]郡和子[硝子]/小林英夫[陶器]/杉山タカ子[皮革]/坂内憲勝[漆芸]福富信[陶器]/伯耆正一[陶器]/前田和伸[陶器]/水野しづ[陶器]村田好謙[漆芸]/室井聖太郎[人形]/吉江夕音[刺繍]


(五十音順) 

第34回 工芸美術 日工会展 受賞者

会員賞名題名種目立・平名前県名
内閣総理大臣賞景 -古の時Ⅱ-福富信栃木
文部科学大臣賞時空を越えて室井聖太郎福岡
東京都知事賞遷移市場勇太静岡
日工会会員大賞悠遊吉江夕音富山
日工会会員賞黒瓷「溜脈」森田高正埼玉
日工会会員賞映幻日市川富美子東京
日工会会員賞游・遊・遊三反田登美子鹿児島
日工会会員賞幽韻木谷陽子石川
日工会会員賞千の風と私小西博子香川
日工会会員賞時の流れ高橋幸一福島
日工会会員賞調べ若松洋子愛知
日工会会員賞祈リノ門上田順康奈良
日工会会員賞ほどける橋詰里織滋賀
一般賞名題名種目立・平名前県名
日工会大賞夢であいましょう竹村雪子兵庫
日工会賞神の果実内田明美愛知
日工会賞次世代シーケンサー鹿野豊子栃木
日工会賞静生椛澤伸治新潟
日工会賞be-full大中原由起東京
日工会賞春の息吹梅本聖夫栃木
日工会奨励賞水の綾平山洋子栃木
日工会奨励賞新創世の星へ大石晃静岡
日工会奨励賞時空の回廊鈴木信子愛知
日工会奨励賞啓蟄日比生伸子徳島
日工会奨励賞シャカシャカ・キー山下鴻峰大阪
日工会奨励賞大場千恵東京

新入選者

「竹林」朝倉慈子/陶器/静岡県
「柔鋭」川合絢也/陶器/静岡県
「風を感じて」佐久間政子/紙芸/山形県
「菱刺し」佐藤佳代子/布/香川県
「錦秋回帰」紫原冨士子/染色/東京都
「帰還」髙原真紀/陶器/香川県
「夢であいましょう」竹村雪子/漆芸/兵庫県
「華鳳凰」手代木チカ/硝子/東京都
「隆起」鳥山翔太/陶器/愛知県
「うねり」畑山稔/木工/新潟県
「斜映」星温美/漆芸/栃木県
「冥冠」村田亮/陶器/兵庫県

審査員講評

 第34回の委託審査委員として審査させていただきました。入選・ 入賞された方々に心からお祝いを申し上げます。
 2025年が明けて世界経済が上下に振れている中で、今回出品された方々は落ち着かない世情の中での制作であったと思われますが、思いのほか明るい色調の作品が多かったというのが第一印象でした。内閣総理大臣賞受賞の福富信氏の『景-古の時Ⅱ-』は落ち着いた色目の組み合わせでありながら光彩を感じさせる明るさでした。
 審査の2週間前にニューヨークに滞在し、 MoMA(ニューヨーク近代美術館)を久しぶりに訪れ、近現代美術というものがいかに余分なものをそぎ落としてきた結果であるということを改めて実感しました。文部科学大臣賞受賞の室井聖太郎氏の『時空を超えて』はMoMAが所蔵するコンスタンティン・ ブランクーシの鳥の作品群にも似ています。ではブランクーシの鳥と本作の『時空を超えて』はどう違うのか?ブランクーシの言葉に”Create like God”(「神のように創造し」)というのがありますが、『時空を超えて』は神ではない、まさに人間が創造したことを感じさせるひとがたとしての優しさにあふれていました。
 そぎ落とすという点で見れば、今回入賞した染織の作品の多くは、そぎ落とされずにむしろあふれんばかりの色と形に満ちていました。それでいて枠の中にきちんと収まっているのは制作にかかる前に何度もデッサンを重ねた結果だと推測します。それが最も効果的に表現されているのが東京都知事賞受賞の市場勇太氏の染『遷移』です。頭の中でイメージを描く→デッサン→制作というプロセスの中でどれほどの「そぎ落とす作業」が繰り返されてきたことでしょうか。日工会会員大賞受賞の吉江夕音氏の刺繍『悠遊』、日工会賞受賞の梅本聖夫氏の七宝『春の息吹』、及び大中原由紀氏の硝子『be-full』にもそれを感じました。
 漆と木の入賞作品には高い技術力を背景に作者の創意の表出が見られました。陶芸は形状と加飾が破綻なく、抑制の効いた表情がもたらされた作品が多くみられました。ただ、一方でなぜこの絵具の色が使われたのかと審査の際に熟考を必要とする作品もあり、自然光が差し込むという恵まれた審査会場でありながら限られた時間内の審査の難しさを実感しました。
 審査する側からいうと、各種目および立体と平面がまんべんなくバランスよく受賞作候補として残ってくれるとよいのですが、そううまくは進んでくれません。しかし、審査を何度も重ねていくうちに、賞に値する力強い作品が種目など関係なくまるで光を放つがごとく堂々と正体を現してきます。今年もそれらの力にみなぎる名品の数々に出会えたことに心から感謝して、また残念ながら受賞を逃した作品にも、次につらなる創意工夫が各所に見られたことを喜びとして、さらなる皆様のご発展を心より祈っております。

東京藝術大学特任教授 井谷善惠

審査員講評

 昨今の団体展、公募展の応募数の減少傾向にも関わらず、日工会は今回も例年の応募数をほぼ維持した。それはこの会への関心や期待を示すと共に、審査においても、展覧会としても、活気に繋がる。実際、 20代を含む若き作り手たちの意欲的な出品もあり、審査会場は瑞々しい空気に満ちていた。ジャンルの上でも、陶芸、染織、漆芸、金工、木工、竹工芸、ガラス、七宝、人形など工芸の代表的な素材領域の他、和紙を用いた紙工芸などもあり、実に多岐に渡っている。各素材領域の内容についても、他では見られないタイプの新鮮な表現が散見され、工芸の可能性を感じさせてくれた。審査は「会員」と「一般」とに分けて進められるが、会員は全体的に一定の水準を示し、破綻がない作品が多い反面、作者が自己自身に対して保守的になる傾向もままある。対して一般の作品の方は、やや粗削りな作品もある一方、挑戦的な表現姿勢がしばしば見られる。展覧会場は、出品者同士、互いに良い刺激を与え、学び合える場ともなるだろう。
 以下、上位の受賞作に触れておく。内閣総理大臣賞の福富信の陶芸《景-古の時Ⅱ-》は平たいパーツを重ねて変化に富んだ構成でまとめ、模様や色調とのバランスもよく配慮されていた。文部科学大臣賞の室井聖太郎の人形《時空を越えて》は、人物を極限まで抽象化しながらも「人」を感じさせる造形力に注目した。色調を絞った事も、形態の抽象性に合致している。そして、この人形作品と最終投票で競った東京都知事賞の市場勇太の染作品《遷移》は構図と配色によって「現代」を強くイメージさせる。さらに日工会会員大賞の吉江夕音の刺繍作品《悠遊》は、色糸を駆使してクラゲのたゆたう姿を優美に表現していた。
 一般公募から選考される日工会大賞の漆芸の竹村雪子《夢であいましょう》は、海外でも注目されつつある乾漆により、軽やかにデフォルメされた動物の形態がどこかユーモラスで想像力を掻き立てる。但し作品の台については本体の印象や雰囲気に相応しくあるべきで、台の調整を条件に受賞となった。そうした「見せ方」についても、作り手は発表経験を積む中で、最善の在り方を学んでいく事になる。
 日工会展は「工芸の今」を知る重要な機会であり、空間である。作り手は皆、素材や技術を駆使して自身の美意識や世界観を独自の姿かたちで表現する事を目指していよう。その創造性の要素には「地域性」も含まれる。今日の情報化社会の中で薄れがちな作者自身の制作の地や歴史、学んだ場などの影響も、その作者ならではの世界を伝えるために生かせる可能性がある。またデジタル技術など最先端技術の使用については、速さや効率よりも、その技術でしか成しえない表現を生み出すならば作品に説得力が生まれる。工芸において先端技術が有効か否かは、今後、日工会展をはじめ実際の工芸作品によって判断されていくことであろう。 

多摩美術大学教授 外舘和子

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