工芸美術 日工会
第32回 工芸美術 日工会展

第32回 工芸美術 日工会展

第32回 工芸美術 日工会展

会期:令和5年6月15日(木)~21日(水)
   9:30AM~5:30PM(入場は5時まで)
   最終日21日(水)は2:00PM終了
   休館日:19日(月)
会場:東京都美術館 ロビー階 第4展示室
入場料:800円
主催:一般社団法人 工芸美術 日工会
後援:文化庁、東京都、日本経済新聞社

主  旨

本会は作家の自由志向を尊重し、個性ある創作活動を通して、時代に即応した質の高い豊かな工芸を創造し、わが国の工芸美術の発展と文化の振興に寄与することを目的とする。

第32回 日工会展開催にあたって

 我が国の工芸は、春夏秋冬が織りなす豊かな自然に育まれた日本人の感性によって、世界に誇る工芸美術として独自の発展を遂げてまいりました。

 心、手、素材の交錯と融合の中から生まれる工芸…、激しく揺れ動く現代の消費社会にあって、ものをつくるという人間本然の行為に根ざす工芸の美は、私達の心のよりどころとして更に豊かな展開がもとめられています。

 工芸美術日工会は、ものをつくる歓びを共有し、作家相互の自由意志を尊重し、価値ある造形を志す作家の集まりであります。現代の人の心に潤いを与え、より高く、時代を先駆ける創造を指向して、日本の文化発展にいささかでも寄与できればと願っています。

 第32回展にも、充実した会員作品に加えて、一般公募作品の中に新鮮な感覚と未来を感じさせる意欲的な作品が多かったことも喜びとするところであります。  開催にあたり後援頂きました文化庁、東京都、日本経済新聞社をはじめ、ご協力、ご支援いただきました関係各機関に感謝の意を表します。

2023年6月

一般社団法人 工芸美術 日 工 会

審査員

委嘱審査員
井谷善惠 (東京藝術大学特任教授) 外舘和子 (多摩美術大学教授)

池上猛 (陶) 井出照子 (陶) 井上絵美子 (漆)
岩渕浩之 (漆) 加藤令吉 (陶) 金井大輔 (染)
川﨑惣一朗 (鍛 河野榮一 (陶) 木谷陽子 (漆)
小林英夫 (陶) 小割哲也 (陶) 四宮未紗子 (陶)
滝川幸志 (陶) 福富信 (陶) 伯耆正一 (陶)
前田和伸 (陶) 村田好謙 (漆) 室井聖太郎 (人)
毛利和子 (彫)
(五十音順) 

受賞者

内閣総理大臣賞京都府 加藤丈尋(陶)
文部科学大臣賞上げ潮石川県高名秀人光(漆)
東京都知事賞黒瓷 「浸溜」埼玉県森田高正(陶)
日工会会員大賞遷移静岡県市場勇太(染)
日工会大賞あふる滋賀県橋詰里織(漆)
日工会会員賞千葉県金井伸弥(陶)
日工会会員賞塞蹟静岡県小割哲也(陶)
日工会会員賞京都府井上絵美子(漆)
日工会会員賞円舞福島県岩渕浩之(漆)
日工会会員賞水踊ル奈良県上田順康(陶)
日工会賞東京都大場千恵(硝)
日工会賞月の水脈東京都大中原由紀(硝)
日工会賞untitled兵庫県慶野ことり(陶)
日工会賞京都府SUIT(漆)
日工会賞風波静岡県藤中知幸(漆)
日工会賞Will京都府吉田里香(陶)
日工会賞リョウコ(量子)京都府渡邉恭成(鍛)
日工会奨励賞生ける香川県河野竹克(染)
日工会奨励賞Space富山県志観寺愛(漆)
日工会奨励賞水中光芒千葉県千葉慶慎彦(陶)
日工会奨励賞富山県寺松尚美(硝)
日工会奨励賞世界は穏やかにつながっている新潟県長谷川宏昭(陶)
日工会奨励賞古琴幻想─風音沖縄県山田泥眞(染)
日工会奨励賞海への憧憬Ⅱ愛知県若松洋子(陶)

審査講評

 今回、第32回の委嘱審査員として審査させていただきました。入選・入賞された方々に心からお祝いを申し上げます。
 審査員として実感したのは、技術力はもちろんのこと造形美にも見るべきものが多いということと、全体としてまれにみる美術的水準の高さでした。その中で、今回の審査にあたりましては、次の三つの点を念頭に置きました。
  ①2023年にしか作れない作品であること
  ②この大きさでなければならなかったと感じられること
  ③品格があること
 2020年以降、日工会展も含めて多くの公募展では、コロナという突然の災厄に対して戸惑いと恐れから、「祈り」を根底に秘めている作品が多いことを感じてきました。2022年になると前を向くという決意が見えました。第32回の日工会展で入選・入賞した作品には2023年にしか作りえなかった輝きと勢いがあります。
 文部科学大臣賞を受賞した《上げ潮》では、底ひなき水底から上がってきた魚群を表現しています。厳しい冬が終わりを告げ、春告魚とも呼ばれるサヨリが卓越した技術と研ぎ澄まされた感性により描かれました。作者・高名秀人光は長年ほぼ同じテーマに取り組んできたにもかかわらず、なぜ今回受賞したのでしょうか。それは、作者が定めた寸法の中に斜めに走る線が生み出す勢いよく爽やかなリズム感があるからです。優れた工芸作品には寸法的に無駄のない美しさがあります。
 近年、工芸においては造形美が優先的になりがちで、平面の作品は遠目にはやや地味に見えるのですが、今回入選・入賞した平面作品には確固たる熟達が示されました。木板にベトナム漆で表現された彼の地の漆の額絵などは油彩画にも似て、高い湿気と暑さのなかで強く生きるエネルギーが感じられます。それに対して、我が国の平面作品には海と山に恵まれた豊かな自然の営みが造形力で表現されます。
 また、内閣総理大臣賞を受賞した《宙》などを含めた立体作品にはどの方向から見ても破綻のない美が感じられました。今回の陶芸作品からは、土という素材を用いてこれほどまでに変化に富んだ作品が各々作れるのかという感動と工芸の未来を確信しました。
 染織は平面でありながら、縦と横の糸が織りなす光と影があたかも生き物であるかのような動きを感じさせました。漆や陶芸だけでなく、あらゆる素材を用いた作品から、ゆるぎない技術力に裏打ちされ、かつ、一瞬たりともここにとどまってはいないという気迫が感じられました。
 自然から受けた感動を現代のかたちへと昇華させた創造性豊かな作品や、一見古典的な意匠でありながら、底部や側面に斬新さが秘められた趣のある作品などもありました。そして、入賞した作品には、最初からとびぬけた票数を得たわけではないのに、審査を重ねるにつれ、どんどん輝きを増し、最終的に確固とした存在感を示したものがありました。それらの名品を審査できたことを心から嬉しく思います。

東京藝術大学特任教授 井谷善惠

審査講評

 昨今、工芸は、韓国や台湾などの様々な国際公募展においても、ダイバーシティ、すなわち多様性が顕著である。この度の第32回日工会展においても、実に豊かな多様性が見られ、しかも、かなりハイレベルでの幅広い表現であったという意味で、まさに国際水準に達しているといってよいだろう。
 団体展は、各作家が切磋琢磨した研鑽の成果を示す場であると同時に、工芸の現況、最前線を伝える場としての役割を持つことを鑑みれば、全体に質の高い多様性が見られたことは、この会の確かな存在意義を示している。
 また、作り手がそれぞれ作りたいサイズで表現しようとしている様子も好ましい。団体展の会場では、ともすれば、取り敢えず応募規定の最大サイズで作るという空気が生まれ、まさに「計ったような」同サイズ、あるいは同じ高さの作品が列をなすことがある。しかし、日工会では、この会の趣旨で謳っている通り、「作家の自由志向を尊重し、個性ある創作活動を通して、時代に即応した質の高い豊かな工芸を創造」(傍点筆者)するために、サイズ感にも、各自の表現に即した「自由」が貫かれているようだ。
 内閣総理大臣賞の《宙》(陶)は、広義のうつわ状のフォルムによるが、充分な高さと、彫りによる面の重層的な作り、銀をぼかした模様の濃淡が奥行きを生み、うつわの実サイズを超える宇宙的な拡がりを暗示し、会員の最高賞にふさわしい造形としての存在感を示している。
 また、文部科学大臣賞の《上げ潮》(漆)は、螺鈿のきらめきを生かして、具象的モチーフをシャープに捉え、一種抽象的な装飾性へと高めている。
 東京都知事賞の《黒瓷「浸溜」》(陶)は、形態の強さが確かな技術で説得力ある造形となった。日工会会員大賞の《遷移》(染)はどこかにありそうな風景を、白やぼかしを効果的に扱い、ドラマティックな世界へと昇華している。
 さらに、若手の出品、健闘が大いに見られたことも、この日工会の将来、そして工芸の未来を示して頼もしい。日工会大賞の《あふる》(漆)は、その象徴的作品であり、圧巻のボリューム感と丁寧な仕上げで、若手ながら工芸表現としての充分な力量を示し、説得力がある。
 以上のような受賞作はもちろん、惜しくも賞を逃した作品の中にも、見応えのある作品が少なくない。展覧会の会場は、活気に満ちたものになっているはずである。さらに、次の作品の制作においても、恐れることなく「挑戦」の意識を大切にして取り組んで頂きたい。

多摩美術大学教授 外舘和子