第33回 工芸美術 日工会展
会期:令和5年6月15日(土)~6月21日(金)
9:30AM~5:30PM(入場は5時まで)
最終日21日(水)は2:00PM終了
休館日:17日(月)
会場:東京都美術館 ロビー階 第4展示室
入場料:800円
主催:一般社団法人 工芸美術 日工会
後援:文化庁、東京都、日本経済新聞社
主 旨
本会は作家の自由志向を尊重し、個性ある創作活動を通して、時代に即応した質の高い豊かな工芸を創造し、わが国の工芸美術の発展と文化の振興に寄与することを目的とする。
第33回 日工会展開催にあたって
我が国の工芸は、春夏秋冬が織りなす豊かな自然に育まれた日本人の感性によって、世界に誇る工芸美術として独自の発展を遂げてまいりました。
心、手、素材の交錯と融合の中から生まれる工芸…、激しく揺れ動く現代の消費社会にあって、ものをつくるという人間本然の行為に根ざす工芸の美は、私達の心のよりどころとして更に豊かな展開がもとめられています。
工芸美術日工会は、ものをつくる歓びを共有し、作家相互の自由意志を尊重し、価値ある造形を志す作家の集まりであります。現代の人の心に潤いを与え、より高く、時代を先駆ける創造を指向して、日本の文化発展にいささかでも寄与できればと願っています。
第33回展にも、充実した会員作品に加えて、一般公募作品の中に新鮮な感覚と未来を感じさせる意欲的な作品が多かったことも喜びとするところであります。 開催にあたり後援頂きました文化庁、東京都、日本経済新聞社をはじめ、ご協力、ご支援いただきました関係各機関に感謝の意を表します。
2024年6月
一般社団法人 工芸美術 日 工 会
審査員
委嘱審査員
井谷善惠 (東京藝術大学特任教授) 外舘和子 (多摩美術大学教授)
石橋美代子(七) 市場勇太(染) 氏家未香子(染)
柿沼一郎(陶) 加藤丈尋(陶) 加藤令吉(陶)
金井伸弥(陶) 河野榮一(陶) 北島直美(陶)
小林英夫(陶) 小西博子(染) 沢田一葉(陶)
志観寺範從(漆) 高名秀人光(漆) 髙原茂嘉(陶)
谷口勇三(陶) 德力竜生(硝) 冨澤利男(陶)
伯耆正一(陶) 細川令子(磁) 前田和伸(陶)
村田好謙(漆) 森田高正(陶) 山口納富子(陶)
(五十音順)
審査講評
第33 回の委嘱審査員として審査させていただきました。入選・入賞された方々に心からお祝いを申し上げます。
2024 年はコロナも少し落ち着いて、マスクなしでお互いの表情が判断しやすいように、審査に際し展示された作品も、上下、正面、背面などあらゆる角度から何度も繰り返し熟視され、審査が重ねられることで、夫々の技の巧緻や独創性の有無が明白に示されました。
どんなに意匠が優れていても、技が追いついていなければ仕上げに雑さが現れます。それだけに、
入賞した作品には日々の鍛錬に裏打ちされた揺るぎのない技が創造性をより高めて、頭の中で思い描いた色を作品に見事に反映させていました。
内閣総理大臣賞受賞の《芽ぐむ》(漆)は、初見では朱色の薄さが腑に落ちなかったのですが、受賞後、《芽ぐむ》という作品名を見た時に(当然ながら審査時は作品名、作者名、出身地などすべて非開示)、「ああ、この薄い色は植物が芽吹くときの息吹の色だったのか」と、計算しつくされた意志の力に納得しました。
文部科学大臣賞受賞の《悠久》(陶)の青の鮮やかさは、ロンドン、ナショナルギャラリー所蔵の『ウィルトンの二連祭壇画』(14 世紀)のマリアと天使の服のラピズラズリを原料とする「青」を思い起こさせました。当該作品の青はこの祭壇画よりやや明るいのですが、金で描かれた上面があたかも天空のようで、作品全体に侵さざる荘厳がただよっていました。
東京都知事賞受賞の《古代幻想》(陶)は、たたらを重ねたことによる重量を支えるために壁に立てかけられており、少し奥まって光の遮りがあったのですが、審査が進むにつれて平面の広がりとモチーフの奥行きの対比の良さが際立ってきました。
会員大賞受賞の《進層》(陶)も、憲房色と墨色の混ざったようなマットな黒系統で彩色されていて当初地味な印象を受けたのですが、自由な造形の中でシャープな辺縁が際立ち、また薄紅色が光の加減で姿を表して、洗練さが忘れがたい作品です。
一般公募の《あの日の歓喜の音》(染織)の糸は太く、それでいて意匠には沖縄の染の軽やかさがありました。
今年は特に染織作品に今しか作り得ない明るい色のマジックがあったように思います。漆は近年の傾向で乾漆が多かったのですが、それだけにお互いが競い合うことでのさらなる充実が期待でき、同時に今後木胎などのどっしりとした作品も待たれます。陶は各々用いた土の材質を生かしてこそできる表現力の多様性が見られました。金工と七宝に大きな受賞はないものの、造形力とフォルム自体にエネルギーも感じられ、明治期に西洋で熱狂的に評価された技術を再認識することで今後のさらなる飛躍を心から期待しております。惜しくも賞を逃した作品にも特にガラスなどには様々な挑戦が見られ、その前向きな歩みは次回が楽しみです。
今回もまた名品の数々を審査できたことを心から嬉しく思います。
東京藝術大学非常勤講師 井谷善惠
審査講評
今年も、審査会場に入るなり、並べられた作品の数々から熱気が感じられた。立体作品のサイズが比較的大きいということもあるが、むしろ作者一人一人が異なる世界を築き上げている表現の多様さと、質の高さによるであろう。特に染織の華やかさ、海外からの出品を含めた漆芸の勢いには圧倒されるものがあった。漆芸は間違いなく今、上昇機運に乗っており、日工会にもそれが象徴的に表れている。
強いて言えば陶芸の占める割合がやや減少した印象はあるが、それは日工会に限らず今の全国的な工芸の現況を反映しているものと思われる。
審査に関し、これまで国際展を含め、かなり多くの工芸作品を見てきた私にとっても、今回の日工会展では他では見られないタイプの作品にも出会い、優品の数々から大きなエネルギーを得ることができた。受賞者が20代から70代までと幅広いことも望ましい。また、受賞者の制作地も多岐にわたっているようだ。
上位の受賞作について少し触れるならば、内閣総理大臣賞の乾漆作品は、滑らかな曲面と鋭いエッジを持つボリューム感と動勢、塗りのみで仕上げる力量が圧巻である。文部科学大臣賞の陶芸作品は垂直性を示すフォルムと変化に富んだ装飾が融合し、そのスケール感と密度が相乗効果を上げている。日工会大賞の染織作品は、色糸が生み出す多重の円とその構図や配色が、華やかさと力強さをハイレベル
な完成度で示し、説得力があった。
なお、審査については概ね次の3点を意識しながら行っている。
第一に創意、創造性が見出されるか。展覧会は作者独自の美意識や世界観を世に問う場所である。
その作品と出会った際に、新鮮さを感じられるかどうかがまず問われる。
第二に、伝えたいことにフォーカスし、作品を構成する要素が、素材や技法を含めトータルに相乗効果を上げているか。不要なこと、必要なことを吟味しながら一つの充実した世界を築く姿勢、と言い換えることもできよう。
第三に、第一の創意と第二の様々な構成要素をまとめ、具現化していくために、必要な技術が発揮されているか。換言すれば、作品の完成度である。工芸の場合は特に技術不足により、自身が目指す表現に至れなかったということも、まま在り得る。
しかしながら、技術は勿論、創意や、自身の表現に必要な要素もまた、工芸の場合は特に「継続」が力になる。試してみて初めて分かることも多いからである。工芸はとりわけ、経験と挑戦が最強の武器になる世界であろう。受賞者も、また惜しくも受賞を逃した者も、今回の制作を、次回作のための貴重な「経験」にしてほしい。
多摩美術大学教授 外舘和子
会場風景、授賞式